研究活動|名古屋大学グローバルCOEプログラム|テクスト布置の解釈学的研究と教育

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研究活動

研究員ブリーフィング

第9回ブリーフィング

2008年9月11日に第9回グローバルCOE研究員ブリーフィングが
名古屋大学文学研究科グローバルCOEオフィス(名古屋国際センター)にて開かれた。

品川 大輔 研究員
『ルワ語(Bantu, E61)における*-ag-aの分岐仮説』

金 銀珠 研究員
『中古語の主格助詞「の」と術後の名詞性』

[2008年9月11日第9回ブリーフィング報告要旨]

<品川発表レジュメ>
 テクスト化される事態を時間軸上で捉えた場合,すでに生起した,あるいは現前において生起している事象に対し,未来時において表出するであろう事象は,概念的に異なるものである(cf. energeia/ entelexeia vs. dynamis).このような質的な,あるいは認識論的な相違に対応するように,言語形式レベルにおいても,過去ないし現在時制表示に対して,未来時制表示が相対的にユニークな特徴を示す傾向が,通言語的に認められている.このことは,未来時制形式の通時レベルにおける流動性,共時レベルにおける(言語間/内の)多様性を鑑みても明らかである(Bybee 1991, Dahl 1985等).本報告では,タンザニア北東部に話されるバンツー系の少数民族語であるルヮ語(Bantu, E61)における未来時制表示形式(以下FUT) -áa の成立過程に関する報告者の仮説を,現地調査によって得られたデータとともに提示した.
 ルヮ語を含む西キリマンジャロバンツー諸語における屈折要素 -aa については,Philippson and Montlahuc(2003: 495)において,an imperfective suffix (Common Bantu *-aga) marking Habitual and Futureという言及があるが,少なくともルヮ語さらには近隣のマチャメ語の体系においては「2つの異なる -aa」,すなわちFUTの -áa,習慣相(HAB)の -aá を認める必要がある.またマチャメ語に関してYukawa(1989: 336)は,HABについては *-aga との対応を想定しつつも,FUTについては別の起源を想定しうる可能性を示唆している.以上の見解に対して報告者は,共時レベルにおける音調論上の,さらにはTA体系上の証拠を以って,i)両者がともに *-aga から分岐的に派生された形式であること,ii)分岐のプロセスにおいて,形式レベルでは静態活用パラダイムの類推的適用,概念レベルでは「予言的(predictive)性質」を介在した習慣から未来への概念拡張が,背景的要因として機能していた可能性を論証した.

<金発表レジュメ>
 平安時代の日本語(以下,中古語と称する)における主格助詞「の」は,(1)のような主名詞が顕在する連体節,(2)のような連体形がそのまま名詞句として用いられる準体節,(3)のような用言の連体形が主節の述語である文,(4)のような接続節,のような構造で主語を表すことができる。
(1)月のをかしき夜(源氏物語)
(2)御達のとまりたりけるも,(落窪物語)
(3)あこぎといふ盗人の,かく人もなき折を見つけてしたるなり。(落窪物語)
(4)音のしはべりつれば,(宇津保物語)
本発表では,助詞「の」が主語を表す上記の構造を,特に述語部に注目し,述語が表す意味,形態,統語的性質を観察した。また,述語がもつ名詞的な性質という観点から,観察された諸現象を名詞述語の意味,形態,統語的性質と比較し,「の」の後の述語が名詞述語がもつ性質に接近していると論じた。
主格助詞「の」に関しては,既に多くの研究において「が」との比較を通してその歴史的な展開が論じられている。その一方で,上記のような「の」が用いられる構文自体の研究は乏しく,「の」が現れる句全体の特徴なり差なりを総体的に観察し,観察された諸特徴がどのように有機的に関連し,何を意味するのか,という視点から論じたものは管見の限り見当たらない。また,助詞「の」は主語を表す場合,先の例(4)のような接続節以外は述語は連体形を取って現れる。しかし,従来の研究においては,助詞「の」が連体形述語を取る理由に,連体形=名詞,という単純な図式を与え,「の」の後に来る述語連体形の名詞のような性質の具体的な内容については検証されてこなかった。中古語の連体形の名詞としての機能は構文の中で判断されるしかなく,英語の-ing形のような動詞が名詞のように使われているというシグナルとしての形態的な装置は持たない。したがって,名詞としての性質は構文的な現れ方に顕現すると仮定し,「の」が主格助詞として用いられる場合,「の」の次にくる用言が単に連体形であるから連体格とみるのではなく,述語がもつことのできる名詞的な性質,用言の中に発現される名詞的な性質という視点を導入した。このように考えることによって,従来,周辺部に追いやられていた先の例(4)のような接続節の用例も考察の範囲に位置づけることができる。
しかし,述語がもつ名詞性の定義をはじめとして,全般的に体系的な説明をしなければならないところが多く,現段階での中間報告となる。

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