研究活動|名古屋大学グローバルCOEプログラム|テクスト布置の解釈学的研究と教育

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研究活動

研究員ブリーフィング

第19回ブリーフィング

2010年1月21日に第19回グローバルCOE研究員ブリーフィングが
名古屋大学文学研究科グローバルCOEオフィス(名古屋国際センター)にて開かれた。

小澤 実 研究員
『記憶と歴史叙述 ブレーメンのアダム「ハンブルク司教事績録」の証言を通じてみたゴーム老王』

[2010年1月21日第19回ブリーフィング報告要旨]

<小澤 発表レジュメ>
デンマーク・イェリング王朝の開祖であるゴーム老王(-958)をめぐる研究は必ずしも多いとはいえない。それは同時代史料が2つのルーン石碑を除いたほか存在しないことに加え、ゴームについて書かれた最初の叙述史料がゴームの死後百年以上を経て編まれたものだからである。さらに、ブレーメンのアダムによって編まれたその叙述史料『ハンブルク司教事績録』(1070頃、以下『事績録』)の叙述もまた、さまざまな問題を孕んでいる。本報告では、報告者が現在取り組んでいる『事績録』のテクスト分析の一部を提示した。
 第1章「『ハンブルク司教事績録』と北方世界」、第2章「ゴームをめぐる記述とウンニの事績」、第3章「「ウンニの事績」の情報源」では、分析対象であるゴームの記述箇所の歴史叙述上の特徴をあぶりだした。結論は三つある。ひとつは、全4書で16人の司教の列伝形式をとる『事績録』は、単なる司教の伝記ではなく、ハンブルク大司教座が首都大司教座への昇格を目指すためのプロパガンダ的要素を備えている点である。二つ目は、ゴームの記述が組み込まれている「ウンニの事績」において、アダムは、ゴーム自身の活動には注目せず、ウンニに敵対する異教の王としての記号的役割を担わせているにすぎないことである。三つ目は、アダムのゴームに関する情報は、確固たる情報源に基づいたものではなく、「あるデーン人の司教」からの伝聞に基づくという点である。
 アダムの北欧に関する情報は、その多くをデンマーク王スヴェン・エストリズセンからの聞き取りに依拠している。第4章「スヴェン・エストリズセンの記憶」では、このスヴェンの記憶に注目し、アダムが彼から何を聞いたのかを再構成しようとした。結論をかいつまんで言えば、スヴェンがアダムに語ったデンマーク王の歴史は、「ウンニの事績」の情報源となった「あるデーン人司教」の話とは異なる。それではなぜ、デンマークの過去の歴史をめぐる両者の記憶は異なってしまったのか。この点は現在検討中であるが、二人の記憶(の食い違い)の背景には、デンマークには単一王権ではなくなお複数の王権が並存していたことを指摘した。

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