研究活動|名古屋大学グローバルCOEプログラム|テクスト布置の解釈学的研究と教育

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研究活動

研究員ブリーフィング

第3回ブリーフィング

2008年1月22日に第3回グローバルCOE研究員ブリーフィングが
名古屋大学文学研究科グローバルCOEオフィス(名古屋国際センター)にて開かれた。

品川 大輔 研究員
『シェン(Bantu G40E)の言語構造的特性の記述』

金 銀珠 研究員
『日本語における主格助詞「の」の歴史的展開』

[2008年1月22日第3回ブリーフィング報告要旨]

<品川発表レジュメ>
 本ブリーフィングでは,ケニアの首都ナイロビにおいて遅くとも1970年代からその使用が認められ,現在広範に話者を獲得している広義の混合言語(mixed language)コードであるシェン(Sheng)を対象とした研究について,テクスト解釈学的な視点からの全体的な枠組みを提示し,その射程内での同コードの構造記述研究が占める位置づけを明示することを第一の目的とした.また,進行中の研究課題の紹介として,シェンの形態統語論レベルでのトピック,とくにその関係節(relative clause)表示に見られる形式的制約(structural constraint)の問題を取り上げて,概略的に論じた.
アフリカにおける言語実践を特徴づける顕著な特質のひとつは,その多層的な言語使用の在り方であり,大都市ナイロビにおいては正にその典型を見ることができる.母語としての現地民族語(local languages),地域共通語としての内陸スワヒリ語(upcountry Swahili),そして公用語としての揺るぎない地位にある英語の三言語が,言語使用域(register)を部分的であれオーバーラップした形で用いられる環境では,いわゆるコード切り替え(code switching)が常態的に認められ,シェンはまさにそれを土台に発生したコミュニケーション・コードとして解釈される.このような背景を含めた形で,ひとつの言語動態としてシェンを捉えたとき,これを読み解くうえで不可欠な視点として,1) 当該コード自体の言語構造的特性,2) 接触による言語変容を説明する一般理論モデル,3) 新興コードの使用範囲拡大を可能せしめる社会的要因,の三点が浮かび上がってくる.これまでのシェン研究は,一般に3) の視点に偏重していた傾向があるが,本研究においては,1) の解明に中心的な焦点を当てつつ,2) の言語動態論的な理論モデル構築のための,実証に基づいた貢献をなすことを目的とする.また,3) の視点については,本gCOEプロジェクトを構成する他領域からの研究成果との効果的な接合が期待できると考えている.
以上のような射程において,発表者は現在シェンの動詞複合体(verbal complex)の形態統語論的構造(morphosyntactic structure)の記述に取り組んでいる.混合言語一般の成立過程においては,その文法的規則の簡略化(simplification),語構造の孤立/分析化(isolation/ analyzation)の2つのプロセスの重要性が従来指摘されている.しかしながら,いくつかのシェンの書記テクストをデータとした分析からは,そのバイアスからは逸脱するような現象を見出すことができる.ごく簡単な例を示せば,内陸スワヒリ語における関係節表示の最も分析的な(analytic)方法(スワヒリ語学で言う"amba-(AG)" relative)は対象としたテクスト内では一例も現れず,代替的に"(AG)-enye"(~を持った)という所有関係詞の純粋関係詞としての使用が顕著であるという現象が認められる.こういった現象から,単なる簡略化,分析化という一般的傾向を制約する力としての「構造的パターン(prefix-stem構造)の維持(或いは広義のstructural leveling)」というベクトルが,むしろ優先的に作用していることを示唆する.以上のような視点,さらには現地民族語からの文法レベルの影響を重視しつつ,細部にわたる構造記述を積み重ねていくことで,シェンが有する/ことになるであろう形式的混質性(hybridity)の解明を試みる.

<金発表レジュメ>
 現代語日本語の連体修飾節においては「髪の長い女」「髪が長い女」のように主語を表示する「の」「が」の2種類の助詞が使用される。現代語の一般的な主語表示は「が」が担当するが,連体修飾節に限っては「の」で主語を表示することができる。本発表では,現代語においてこのような「の」が現れるのはなぜかについて,中古語における主語を表示する助詞「の」が現れる構文と現代語の連体修飾節において「の」が現れる構文の意味的構文的特徴と比較した。その結果,現代語の連体修飾節における助詞「の」は中古語における準体法の役割の一部分を担ってきている可能性がある,というのが現段階で発表者が到達した一応の見通しである。具体的にいえば,「髪の長い女」「芯の切れたシャープ」のような「の」が用いられる現代語連体修飾節の例は中古語では「女の髪長き」「シャープの芯切れたる」のように表現される可能性があるということを示唆した。これは,対象とした中古語の文学テクストでは,「髪の長い女」「芯の切れたシャープ」のような被修飾名詞がヒト,モノ(女,シャープ)である例がほとんど見当たらず,このような例は準体法の表現の例が多いことが主な根拠になっている。ただし,これは歴史的な検証を経なければならない問題であり,細部の検証は行われていない。今後の課題とした。
また,上記の作業は,日本語テクスト構造の連体修飾節において主語を表す助詞として「の」が選択される理由について,通時的な観点から「の」の歴史的展開とその言語内的要因を解明することへの将来的展望を得ようとするものであり,今後必要とされる研究課題を整理した。それには通時的観点から,「の」が現れる全体的な句の特徴なり差なりを総体的に観察し,その有機的関連性を把握すること,「が」が用いられる例との総体的な比較が必要であること,現代語の連体修飾節における主格助詞「の」が用いられる理由を歴史的観点から解明すること,の三点の考察が必要であるとした。

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